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執筆者の写真いまいこういち

台風で被災した佐久市コスモホール芸術監督の奥村達夫さんに聞いた

 

去る12月1日、第19回コスモホール佐久『第九』演奏会が開催された。石毛保彦の指揮のもと、市民合唱団100名(指導者5名・団員95名)が、佐久室内オーケストラ70名による演奏にのせて、柳澤萌(ソプラノ)、前島眞奈美(アルト)、井出司(テノール)、藪内俊弥(バリトン)のソリストとともに高らかに「歓喜の歌」を響かせた。

 この『第九』演奏会は、旧臼田町時代に開場した佐久市コスモホールの10周年を記念して始まった催し。市民で構成された実行委員会の主催で、今回が19回目となった。毎年コスモホールで開催されていたにもかかわらず、今年は浅間小学校体育館に場所を移したのは、コスモホールが台風19号で被災してしまったから。「このようなときにこそ、勇気と希望の『第九』を!」との思いを乗せた熱唱に、「災害を受けた佐久市の復興に向けた力強い音が聴けました」「座り心地の悪いパイプ椅子でしたが、いつまでも会場にいたいと思った」「何度も聴いた歓喜の歌で、初めて涙しました。改めてホールも楽器の一つだったんだと思いました」「ホールのある暖かさやありがたみを痛感しました」などの声が届けられた。

 そして、やはりこちらも恒例の市民参加による、こころのミュージカル2019『心の中の光となって〜人間物語 丸岡秀子の半生〜』も11月から2020年2月に延期になった。

 館長兼芸術監督の奥村達夫さんに被災状況を聞いた。

「旧臼田で言えば、入沢地区が川の氾濫によって床上浸水など被災したんですけど、そこからコスモホールのある小田切地区あたりが被害が大きかったんです。コスモホール周辺がこの地域の一番底になります。だからここが水を被ったぶん、ほかが冠水しなかったと言えるかもしれません。コスモホールは外観的にはこれまでと何も変わらないのですが、地下の機械室が冠水して電気系統を失ってしまったんです。もし雨量がもう少し多ければ、あるいは千曲川やホール前の片貝川があふれていたら、楽屋口の高さから数センチ上に舞台面があるコスモホールは壊滅状態だったと思います」



 お話を伺った12月上旬、ホールの裏手の広場に、浸水で使えなくなった畳や家具、布団などが運びこまれていた。こういう災害があったときに、文化施設がオープンしていることが時として非難されることもあるが、文化・芸術にまつわる仕事をしている僕は、そこに暖かい明かりが灯っていることの重要性を感じる。復興という目標を照らしているようにも感じられる。しかし、今回は、その火を灯すべきホールが、指定避難所でもあるはずのホールが被災してしまった。



「指定避難所でもある我々が避難しなければいけない状況になったわけです。今までこうした災害がなかったことに甘んじてきたと言われても仕方がありません。このホールが地域にとってどれだけ重要な施設なのか理解があれば、十分な量の土嚢を常備したり、非常電源だけでも2階に上げておこうとか、なんらかの対応をしておくべきだった。緊急用のwi-fiも電気がこなければ使えない。併設している図書館も同じ電源を共有しているから開場できない。またコスモホールのある場所は遊水池で、それは私も先日知ったんですけど、24時間ポンプで地下水をくみ上げて片貝川に流し続けているんです。停電で一番ダメージが大きかったのはそのポンプが稼動できないことかもしれません」

 コスモホールでは、『第九』コンサートや「こころのミュージカル」だけではなく、市民利用や貸し出しの予定などをすべてキャンセルした。「こころのミュージカル」の稽古さえもここではできない。復旧の目処はと言えば、佐久市では4月までが電気工事、5月からは小ホールを稼働させると発表している。大ホールはたまたま9月から吊り天井の工事が予定されており、このまま修繕に入って来年1月にはこちらも再開したい意向。ただ被災による費用の増額のため、市では財政負担が厳しく、国の補助金に頼らざるを得ないという。それにしても現状復帰をすることが原則。しかも満額補助になるかどうかも査定次第で、被災から4カ月たってもまだその辺りのスケジュールが見えてこない。

 「阪神大震災以降言われることですが、僕らは被災された人たちにどれだけ寄り添うのか、僕らはホールとして被災地域にボランティアとして手伝いに行くよりも、代わりに市民の皆さんをどうしたら元気づけられるのかを考え、そのために動くべきだと思うのです。これまでも実施してきた『ランチタイムコンサート』、『学校にコスモホールがやってきた』、体験講座『パフォーミング・アーツ・スタジオ(通称:PAS)』などの自主企画でどんどん外に出て行って、コスモホールのことを発信していきたい」と奥村さんは語る。

 さて、ここからは余計なお世話を承知で書くことにする。



 『第九』の会場を変更しなければならなくなったことで、参加者は初めてホールの重要性に気づいたのではないか。自分たちの成果を発表する場だから素敵な場所で歌いたいという思いもわかるが、そこにはさまざまなスタッフが介在し、打ち合わせを重ねて準備をしており、ホールが変わるだけでも、そっくりそのまま簡単に移動というわけにはいかない。そしてまた、東信地方には企画の規模に見合ったホールが少ないことも重なった。175名が演奏できる会場は、タイミング良くは見つからなかった。参加者が意見を擦り合わせて体育館に落ち着いたものの、参加者の数だけ思いの違いも浮き彫りになった。出演者だけでも175名というのは、その歴史の積み重ねゆえの凄さだと感じる。だからこそホールへの思いを違う形で発信してほしい。

 佐久市は数年前、新ホール建設の是非を決める住民投票があった。そのときの市民の声はネット上で見られるので機会があったら読んでほしい。安易に新ホールを建てておけばよかったと言うつもりはない。佐久だけでの問題ではないが、税金の使い方に論点が集中し、なぜホールが必要なのか、文化の秘めた可能性はなんなのかを投票の前にもっともっと議論する必要性があったと思うのだ。それは反対派だけではなく、むしろホールが必要と声を上げた側に言えることかもしれない。今回の『第九』演奏会は文化のことを深く語り合い、文化に対するマインドを醸成する機会になってくれればと思う。本当に余計なお世話だ。

 ちなみに、こころのミュージカルは、2月11日(火・祝)に小諸文化センター、 2月15日(土)に長野市芸術館で行われる。小諸文化センターは延期の公演だが、この日に利用予定を入れていた方がわざわざ空けてくださったのだという。また長野市芸術館公演は、11年目を迎える今年、一度よその街で上演することで新たに自分たちの活動を見つめ直そうという理由から当初より予定されていた。延期によって出演が叶わなくなったメンバーが出てしまったのは残念だが、年が明け、ジプシーのように施設を転々としながら稽古を行なっている。

こころのミュージカル2019『心の中の光となって〜人間物語 丸岡秀子の半生〜』の製作委員会・廣末恵子委員長は、公演に向けてこんなふうにコメントをくださった。

 「被災したコスモホールを見て真っ先に思ったのは『公演は無理』だということ。一方で頭の中をよぎったのはここまで練習をしてきた出演者やスタッフのことでした。そこで委員会のメンバーと走り回って代替えホールを捜しました。多くの協力を得て小諸市文化センターでの延期公演が決まりました。今までの10年間もたくさんの方々に応援をいただいてきたんですが、今回ほどそのありがたみと皆さんが寄せる期待の大きさを感じたことはありません。その恩返しの意味も込めて精一杯の公演にしたいと思います。

 コスモホールが長期休館となって本当にたくさんの団体が困っていることを目の当たりにしました。使えなくなったからこそ佐久市民に愛されていたホールだと改めて実感したばかりか、その“事実”は私の想像をはるかに超えていました。改めて一日も早い復旧を望んでいます。

 ミュージカルの上演延期に際し一番奔走してくれたのはコスモホールの奥村館長でした。不安に思う出演者やスタッフを気遣い、何とか実現できるよういち早く判断し、専門的な意見を述べ、速やかに決定に導いてくれたのです。製作委員会が成長してこられたのも奥村館長の指導のたまものです。その恩返しの意味も込めて、またコスモホールの存在理由を証明するためにも、公演の大成功を目指したいと思います」

 『心の中の光となって〜人間物語 丸岡秀子の半生〜』では、旧臼田町に生まれ、戦前から戦後にかけ農村女性の自立と解放、いのちの尊厳を訴え奔走した社会評論家・丸岡秀子の、どんな時も自分らしさを失わず強く生き抜いた姿を描くという。




 長野県内のホールが被災したという話はこれまで聞いたことがなかったが、今回の台風では、この佐久市コスモホールのほか、更埴文化会館(あんずホール)も被災した。ここも電気系統が地下にあったと聞く。気候変動により、大雨が降る可能性は今年にだってあるわけで、合併地区だから放置されてきたということもないだろうが、当たり前のこととして、そのことを見越した対応がなされるべきであることを改めてお願いしたい。これも余計なお世話だろうか。

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